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文化財建造物の高精度放射性炭素年代測定

建築年代を調べるための方法について
簡単に説明します。
また、歴史的建造物放射性炭素年代調査の例を紹介します。




放射性炭素にはいくつか呼び名があります^^
炭素14(たんそじゅうよん)
14C(じゅうよんしー)、C14(しーじゅうよん)
かーぼんふぉーてぃーん

放射性炭素年代調査を、14C年代調査と表記することがあります

ギャラリー

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痕跡復原・様式編年

建築の様式は時代を反映し、構造技法は次第に発達してゆくもの、との前提に立って、建築年代の前後関係に従って建築遺構を年代順に並べる様式編年の方法は、ある建物が別の建物より古いか、新しいかは分かるが、数字による年代は分からない相対年代法である。そのため、棟札などによって建築年代の分かった建物を年代観の基準にする。
様式編年を行うためには、後世の改造を取り除く必要がある。建物の一つ一つの部材を観察し、部材表面に残るホゾ穴や風食などの痕跡を手掛かりに、建築当初の姿を復原考察するのが、痕跡復原法である。浅野清博士が考案し、法隆寺の昭和の大修理において初めて用いられた。

年輪年代法dendrochronology

樹木の年輪は気候の良い年は年輪幅が大きく、気候のよくない年は年輪幅が狭くなる。同じ時代に同じ地域で育った樹木は、この年輪幅の変化も個体差を超えて類似する。現在から過去に遡る年輪パターンの変化をグラフにした標準年輪曲線)を作成することができれば、未知の木片資料を標準年代曲線に対比させることで、1年の誤差も無く、未知の木片の年輪の形成年を知ることができる。1929年にアメリカのA.E.ダグラス博士が開発した。日本では、奈良文化財研究所の光谷拓実博士が、1985年に、ヒノキ、スギ、コウヤマキ、アスナロ(ヒバ)の標準年輪曲線を作成し、これらの樹種の年輪年代調査を可能にした。

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放射性炭素年代測定の原理
14C-dating

炭素は安定同位体の12Cと13Cと放射性炭素の14Cが存在する。常に宇宙からの放射線を浴びる地球の大気上層で、窒素が核反応して14Cが生成される。14Cは12Cや13Cと混じり、二酸化炭素となって地球上に拡散し、光合成によって植物に取り込まれる。生命体は生きている時は食物連鎖により、大気と同じ14C濃度であるが、死ぬと14Cは5730年を半減期として元の窒素に戻ってゆく。14C年代測定は生物遺体の14C濃度を測定し、死んで以降の時間経過を推定するもので、樹種や植物動物を問わず測定できるが、数十年程度の測定誤差がある。アメリカのW.リビー博士らが1947年に原理を発見し、1960年にノーベル賞を受けている。

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高精度14C年代調査の方法

14C年代調査はAMS、暦年較正、ウィグルマッチ法で高精度化した。
加速器質量分析(Accelerator Mass Spectorometry:AMS)は、試料中の14Cを直接数えることのできる方法で、これにより測定に必要な試料量が微量で測定誤差が減少し、文化財建造物に適用できるようになった。
暦年較正は、大気中の14C濃度が一定ではなく変動するため、樹木年輪測定で得られる過去の変動データを用いて、未知試料の測定値を暦年代に変換するもので、これにより推定年代の精度が格段に向上した。
ウィグルマッチは、年輪の中心部から最外層までの複数の部分を測定し、精度を向上させる方法である。

放射性炭素年代調査の歩みお知らせ

2013年度
福島県会津喜多方市にて文化財シンポジウム「大発見!長床〜解明された建築年代〜」が開催された。8月、重要文化財鑁阿寺本堂が国宝に昇格指定され、栃木県足利市にて国宝記念シンポジウム「鑁阿寺本堂を考える!」が開催された。いずれも14C年代調査が、文化財の価値を高める好例となった。
2011年度〜2013年度
科学研究費補助金基盤研究(B)を獲得。国立歴史民俗博物館基盤研究と共同研究で、国宝石水院、重文岡花家住宅、川井家住宅(永井規男、関西大学)、重文古井家住宅、重文滝沢本陣横山家住宅(宮澤智士、長岡造形大学)、重文熊野神社長床(日塔和彦、東京藝大)、重文尾形家住宅(山形大学高感度加速器質量分析センター)の年代調査を実施。
2010年度
重要文化財鑁阿寺本堂(上野勝久、東京藝大)、重文古今伝授の間(永青文庫)の年代調査を実施。
2009年度
(株)パレオ・ラボおよび国立歴史民俗博物館基盤研究「歴史・考古資料研究における高精度年代論」(坂本稔)の共同研究で、重文彦部家住宅の年代調査を実施。
2006年度〜2008年度
科学研究費補助金基盤研究(B)を獲得。国立歴史民俗博物館基盤研究「歴史資料研究における年代測定の活用法に関する総合的研究」(坂本稔)と共同研究で、国宝大善寺本堂(共同研究者:渡辺洋子、芝浦工大)、山梨県指定棲雲寺庫裏(共同研究者:マーティン・モリス、千葉大学)、萬福寺天真院客殿(丸山俊明、京都美術工芸大学)などの14C年代調査を実施。長野県宝池口寺薬師堂(大河直躬、千葉大学)では年輪年代法(光谷拓実、奈良文化財研究所)、酸素18法(中塚武、名古屋大学)と共同で年代調査を実施。
2005年度
福武学術文化振興財団研究助成「AMS分析による成立期近世民家の年代判定」(90万円)を獲得。国立歴史民俗博物館基盤研究「高精度年代測定法の活用による歴史資料の総合的研究(今村峯雄)」と共同研究で、重要文化財箱木家住宅、重要文化財吉原家住宅の14C年代調査を実施。
2004年度
重要文化財関家住宅(神奈川県)の14C年代調査を実施。現存する文化財建造物を対象にした最初の14C年代調査。主屋は近世初頭、書院は17世紀後期の年代が得られた。徳川家光公が書院で休憩されたとする言い伝えを否定しない結果となった。

14C年代調査の部材条件

樹種は何でもOK

◆表皮、ノタ、白太(辺材)つき
◆年輪は多いほど良い
◆年輪を数えることができること
◆1試料10mg以上(爪楊枝5分の1程度)のサンプル採取が必要