グリンプス    Grimpses

ルイス・シャイナー


60年代ロックが好きなら、きっと涙なくしては読み進むことができないだろう。セレブレーション・オブ・リザードの録音されたテープを胸に抱きながら泣いているグレアムと一緒に大泣きしてしまった。

 人生に行き詰まった40男が、60年代に経験した挫折の数々を思い出すうちにある特殊能力に目覚める。それは録音されなかった、あるいは未完に終わった幻のロック・ミュージックを完成させる能力である。さらに彼は幻のアルバムを求め、現実の様々な問題を抱え込んだまま「こうなっていたかもしれない」60年代にトリップしていく。

 多分に自伝的要素の強い本作品であるが、主人公はレイ・シャックルフォードはその名前からして作者ルイス・シャイナーであるし、彼の思い出として出てくるコンサートや、曲もすべて現実のものである。そしてここで深く掘り下げて語られるのは父親と息子の関係である。僕も主人公とまったく同じとは言えないが、かなりの部分で共感できる体験を持っている。実際 僕の幼い頃の父の思い出は非常に鮮明で、逆に思い出そのものが数える位しかない。最近知ったことだが、僕が幼い頃 父は僕が寝る前に帰ってくることは本当に希で、いわゆる団塊世代の家庭を顧みない仕事人間であったということだ。ただ幸いなことに父は地方公務員であったため転勤(転校)の経験はない。シャイナーは作品の中で「子供の頃、そうやっていつも移動してまわっていると、3つのことにつながるという。アル中、結婚の破局、権威への反発。」といっている。仕事熱心な公務員の子供も同じなのかどうかは知らないが僕もこのうち二つは身につけた。結婚の破局は独身なのでまだ経験できないが・・

 ルイス・シャイナーはサイバー・パンク作家ということになっているが、「打ち捨てられた心の都」もこの「グリンプス」もギブソン、スターリングのような電脳空間はでてこない。まあ強いていえばスリップストリーム文学は僕のなかでポスト・サイバー・パンクという認識があるんでいいんである。SF色は相変わらず薄い。何年かしたらバラードやブラッドベリのようにハード・カバーで岩波あたりからでるようになるんだろう。

 本書で「復活する」幻の名曲、アルバムである

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