アヌビスの門

ティム・パワーズ


 80年代後半にヴィクトリア朝イギリスを舞台にしたマッドなファンタジーをスチーム・パンクと呼ぶ。この登場の陰にはあのP.K.ディックがからんでいる。70年代に駆け出しの作家だったK.W.ジーターJ.P.ブレイロック、そしてこのティム・パワーズの3人は、カリフォルニア州オレンジ郡に住み、ディックとの親交のもと小説のアイディアを叩きあっていた。サイバー・パンクの次の潮流は”蒸気駆動”の時代だとジーターが冗談で命名したのがスチーム・パンクである(らしい)。

 さて物語は1802年大英帝国の崩壊をもくろむエジプトから派遣された二人の魔術師がアヌビス神を召喚するための門をあける。この門が時の壁に穴を穿つ結果となる。
 1983年この穴を発見した大富豪が1841年のコールリッジの講演を聞くツアーを主催する。このツアーのコールリッジ専門家として呼ばれるのが主人公ブレンダン・ドイルである。コールリッジの講演を無事聞き終えた一行は現代に帰還せんとするそのときドイルは謎のジプシーに拉致され1810年に一人取り残される。
 
 とにかく作品中に登場する文学者はそうそうたるものだ。コールリッジ、バイロン、ワーズワース等・・。鍵は謎の詩人ウィリアム・アッシュブレスなる人物だが、これはおそらく作者の虚構であろう。そしてタイムパラドックスを逆手にとった緻密な伏線と史実と虚構をたくみに織り合わせた背景はまさに圧巻である。ぜひ再版すべきだぞ!ハヤカワ!
 
参考文献
ロンドン 小池滋 中公新書
ロンドン塔 出口保夫 中公新書  

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